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燦々と惜しみなく降り注ぐ陽光に似ている。
サラサラとどこまでも流れゆく小川のせせらぎに似ている。
パッと咲いて人を喜ばせる、ただそれだけの花束に似ている。
紅花は捲し立てられる早口に目を回しつつも、小さく頭を左右した。
にっこりと女は笑う。
「姐さんに早く会いたいかい」
彼女の言う「姐さん」は、紅花にとっての哥さん、つまり玉露のことである。
こくり、と今度は首を縦にした。
しばらく風呂に入れなかった為、幾分油っぽくなった禿髪を、女は優しい手つきで撫でる。
「そりゃあ、そうだねえ。うんうん、真っ直ぐ帰ろうか。誰だって早く家には帰りたいもんだよね」
家。
という言葉が、彼女はまったく何の気なしにそう言ったのであろうけれど、紅花の胸にスッと沁み込んだ。
急に喉が塞がって、熱いものが目頭に滲む。
何がそうさせるのか、紅花にはわからなかった。
ただとても嬉しい気がした。
「おやまぁ、里心がついちまったかね。すぐに着くから、泣かないでおくれよ。苛めてるみたいじゃない」
いつか玉露の言ったような台詞を口にして、女は緑と花の匂いの染みついた胸に小さな頭を抱き寄せた。
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