五幕の一・色打掛

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萎れていた紅花も興味を引かれて顔を向けた。 玉露の持ち物は高価なものが多い。 中でも着物は特に値が張る。 当たり前である。 着物は娼妓としての彼を飾る商売道具の一つであり、いわば舞台衣装で、普段着とは異なるのだ。 よって、本来ならいずれも丁重に紙に包んで保管すべき代物なのであるが、 何しろとっかえひっかえ前夜とは違ったものを身にまとい、組み合わせも考えねばならぬから、一つ一つの扱いはぞんざいになりがちで、 逐一包んでしまったりはされぬことが多い。 何なら玉露は脱ぎ散らかすだけなのを、紅花が干したり伸ばしたりして畳んでしまうのが常である。 どうにも腑に落ちぬことだが、皺をこさえて責められるのは紅花なのである。 それは兎も角、日頃そのように値打ちに見合わぬ着物の扱われぶりを知る紅花は、 端の結び目までもきっちりとたとう紙に包まれしまい込まれた着物に興味をそそられた。 凹もうが落ち込もうが、長くは引きずらないのが紅花のよいところである。 尤も、初めからそんな気質だったかと言えばそうではなく、うじうじめそめそと長く思い煩っている暇もない暮らしが少年を鍛えたのかもしれぬ。 とすれ些か不憫でもあるが、単に気分のころころ変わる玉露と過ごすうちに幾らか似通っただけかもしれない。 長年相連れ添う夫婦は似た者同士になると言う。 師弟もまた然りか。
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