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五幕の三・類なき花嫁
その宵、玉露は灰に近い薄紫の、地味だが上品な着物を纏った。
上質な絹は派手さはなくとも目に絢である。
裾には、優美な流水紋に囲まれて寄り添い合う、一対の鴛鴦が描かれていた。
玉露はこれに真っ白な帯を合わせ、小さな翡翠のついた帯締めをした。
翡翠は亀を象っている。
亀には違いないが妙に尾の長い形は、蓑亀を表しているのだろうか。
純白の帯は丁寧な職人仕事で亀甲紋が織られており、灯を撥ねるとほんのりと浮かびあがる。
打掛は古来ゆかしき深紫に、
若竹がまだ浅い緑で旺盛に天へと伸びゆく姿が染め抜かれ、その先に雁の群れ。
高らかに丹頂鶴の松葉を咥えて飛翔する花喰鳥の紋様が、格別目立つこともなく調和の中で、一糸一糸膨らみを持たせて刺繍されていた。
鴛鴦を除けばいずれも長寿を表す吉祥紋の図柄である。
風格ある装いは、自らが派手に着飾るよりもきめこまやかな小道具のひとつ、ひとつで、
恩義ある人の喜寿の祝いを寿ごうとういう、練達した奥ゆかしさが感じられる。
それもまた、成長の証として、かつて水下げの相手を務めた者を喜ばすには違いない。
けれども、と紅花は思う。
失われたあの衣を思えば悔しくてならず、引き比べるから見劣りを覚える。
しかし玉露は過ぎた事などどこ吹く風と、口惜しむことはしなかった。
但し、事の発端である潮に対しては、かつてない痛烈な言葉を放っている。
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