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曰く、
「いいかい、娼妓ってのは昔から情に篤い生き物と相場が決まってんだ。
情夫が困窮してりゃあ、助けを惜しまないのは当たり前。借金で首が回らないってんなら、それがどんな大金だって肩代わりしてやるのが娼妓の務めさ。一も二もなく頼られるってのは女冥利に尽きるしね。
けどね、あんた一度でもあたしを口説いたことがあるかい? いつだって横車押して、手前勝手に組み伏してきただけじゃないさ。揚げ代ひとつ払ったためしがない。
金の話をしてんじゃないんだよ。惚れた相手が欲しいんなら、甲斐性見せろって言ってんだ。それが商売女なら金子で話がつくんだから楽なもんじゃないさ。
金で情は買えないなんて馬鹿なことはお言いでないよ。筋を通して場を得ようって相手を無下にゃしないさ。こちとら玄人なんだからね。多少なり絆されてやるってもんさ。繰り返すけど、娼妓は情が篤いんだよ。
それをまあ、あんたって奴は。
金子と引き換えに抱くのが厭だってんなら、好きだなんだとはっきり口にすりゃいいじゃないさ。それとも何か、惚れてもないのに一物ぶち込んで腰振るのが趣味なのかい。阿保らしい。女日照りってわけでもないんだろうに、何を好き好んで男を抱くんだい。理由なんて端から一つしかないだろ。だのに言えもしないなんて、意気地のないこと。お見通しなんだよ。
いいね、改めて言うのも馬鹿馬鹿しいけど、はっきり言ってやる。あんたは、あたしの、情夫じゃないんだよ!
今回ばかりはあんたの顔を立ててやったけど、二度はないよ。金輪際、あんたを庇い立てすることはないから、よっく覚えておきな」
反論する間を与えることは愚か、
息継ぎする間も惜しいとばかりに一気呵成に言ってのけた玉露は、
言い終えるなり潮を文字通り一蹴のもとに部屋から蹴り出した。
これには紅花も胸のすく思いを味わったものである。
が、だからと言って失くしたものが戻るではない。
なおも未練がましい紅花をよそに、
玉露はこれきりこの一件は始末のついたものと決めたらしかった。
彼の態度がそうである以上、紅花は何も言えない。
あれよこれよと命じられるままに、仕度を手伝うのみである。
取り急ぎ呼び立てられた髪結いだか呉服屋だかが、
何やら玉露と話し込む間、紅花は装いに合う扇を見繕う仕事を請け負った。
金の蝙蝠では派手過ぎる、白木の透かしでは祝いらしくない。
と、黒だの紫だの金文字入りだののフタのついた小箱を開けては閉じて漁るうち、
紅花の手はひとつの古びた箱に行き当たった。
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