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ただ、紅花の知る他の扇とは趣が異なっている。
扇子と言うより、団扇に近い。
つまり、折り畳めない作りなのだった。
厳密には折り畳めないことはないのだろう。
骨の部分は手元で重なり、束となって、要と呼ばれる留め具もきちんと打たれている。
一般的な扇子と同じである。
けれども骨に張られた紙の部分に、蛇腹になって畳まれる為の山折り谷折りの跡がついていないのだった。
箱が平べったかったのは、広げたままの形で収められていたからである。
紅葉の柄であった。
骨は漆塗りであるらしく、艶々と光沢を帯びている。
閉じた際に見える最も太い親骨の表面には螺鈿であろうか、雲英にも見える精緻な細工が施されている。
そこだけならば大層高価な代物に感じられた。
しかし、張られた紙は箱と同様、妙に安っぽい。
紅葉の柄は錦絵でも蒔絵でもなく、どうやら本物の紅葉を用いたもののようだ。
手漉きの和紙に織り込んで、更に上からも幾つか貼り付けているらしい。
大きさも形も不揃いで、色褪せてしまったのか茶色い葉まで混じっている。
特別に美しく配されているようにも見えない。
「哥さん、これ……」
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