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「抱えきれんのう。すっかり大きうなって」
言葉通り、老翁の腕は玉露の体に回り切らない。
どうしてか人は歳経ると小さくなってゆく。
小さく痩せた老翁に対し、玉露はふた回りも三回りも大きく力強い。
けれど八木三郎の抱擁は玉露を余さず包み込み、
玉露もまた、いとけない幼子の如くに、大きな胸に抱かれているのだった。
表層が必ずしも真とは限らぬ。
老爺の腕に抱かれながら、玉露はついと腕をもたげて、
床の間を指し示した。
「おや」と八木三郎が目を大きくする。
そしてまた、ほっほと肩を揺らした。
床の間に飾られているのは一枚の扇である。
紅花が玉露に命じられ、急遽、先に用意していた生け花と差し替えたのだった。
古伊万里の大皿など陶ものを飾る際に使う脚を用いて立てかけてある。
件の、骨ばかりが立派で妙に安っぽいような紅葉柄の扇子だ。
それだけではあまりに見栄えがしないので、そばに松葉と千両の赤い実を控えめに散らしておいた。
二人の視線が床の間に向けられているのに気づき、紅花は慌てて酌を切り上げる。
いそいそと二人の元に向かった。
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