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騒動から明けて翌昼過ぎ、自称探偵の洒落ものの青年がふらりと現れ、
軽い挨拶をして奥へと上がってゆこうとするその手に、
大ぶりのたとう紙が抱えられているのを見た時には慌てて引き留めた。
先般、詰めかけた無頼どもが似たような包みを持って出て行ったのを目にしていたからである。
あの時は我ながら情けないことに、手も足も出なかった。
「これですか。
さあ、僕も詳しくは聞かされていませんが、ともかく急ぎ受け出して来いと、質屋に走らされましてね。まったく、相も変わらず人使いが荒い。
ご亭主も色々と大変なご様子ですね。ま、あまり気にされないのが宜しいでしょう」
飄々と男は云ってのけたが、まったく事情を知らぬではなかろう。
実態は万事屋みたいなものらしいが、一応は探偵である。
早耳、地獄耳の情報通に違いない。
少なくとも、店先で起こった一件の噂くらいは既に耳にしていよう。
ならばその後のことについても、
今、自分の抱えている包みと繋いで憶測くらいは立てていよう。
「いくらかかった」
思わず勢い込んで尋ねたが、
「無粋なことをお言いなさいますな。そんな事ではあの人は喜びませんでしょう。
むしろ、多大な恩を売ってやったと今頃ほくそ笑んでいらっしゃるでしょうから、買ってやるのが宜しいかと。
金子で話をつけようなんてしたら、あの人は妙に意固地になるでしょうしね」
そう言って男は軽妙な足取りで奥へと去った。
それきり、玉露が何も言ってこないから、こちらも言うに言い出せず、
手前の店で抱える娼妓に恩義を受けるという、あべこべな状況になってしまった。
恨む筋合いなどありはしないが、これではこちらの立つ瀬がなく、
借りた金なら返せば終わるが、
受けた恩はどれだけ返せば済むというものではない。
これが義理人情で手玉遊びする年季の入った娼妓の遣り口かと思うと、
お門違いに玉露を憾んでみたくもなる。
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