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思いがけず小腹を満たす間食を手に入れた紅花は、
嬉々として二階へ駆けあがった。
白い皿に盛った一本のスルメのほこほこと立てる湯気と同じくらい、
ホクホク顔で玉露の私室へ入る。
途端、
「あんった、馬鹿じゃないのかいッ」
険しい声が飛んできて、紅花はびくりとすくみ上った。
気持ちの上では直立不動、気を付けの姿勢である。
実際には両手でお行儀よく皿を持っているけれど。
取り落とさなかっただけ紅花にしてはよくできた方とも言える。
びっくり仰天、
皿の代わりに落とさんばかりと見開いた紅花の両目に映ったのは、
声と同じく険しい顔の玉露であった。
元より高い眦を一層高くし、柳眉を高く釣り上げている。
逆に口角は大きく左右で引き下げた、怒りの表情であった。
仁王様もかくやといった形相をしたその玉露は、
ずかずかと大股にやって来ると、
紅花の肩越しにサッと襖を開くなり、乱暴に紅花を廊下へ押しやる。
ふらつく少年の鼻先でピシャリと襖が閉ざされた。
てっきり玉露にも喜んでもらえるものと、
なんなら「でかした」と褒めて貰えるつもりでやって来た紅花は、
冷や水を浴びせられた気分で立ち尽くす。
襖越しに、はああ、と大仰な溜め息が届いた。
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