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折角の分け前を玉露にも喜んで貰おうとした自身の好意が無碍にされた悲しみ、
けれどもそれも当然で、己が考え足らずであったことの情けなさ。
これまで何を学んで来たのか、
当たり前の気遣いを欠いた失態に、玉露が怒るのも無理はなく、
そうさせてしまった自分が悔しい。
これまでに積み上げてきたものさえ台無しにしたように思え、
それが堪らなく悲しい。情けない。
ととと、と小さな足音を立てて去りゆく背に、
「ちょいとお待ち」
と声がかかった。
数段、降りかけた急な階段を踏み外さぬよう、紅花は肩越しに後ろを振り返る。
半端に開いた襖から上半身だけ突き出した玉露が、歪んだ少年の顔を見やって眉尻を下げた。
への字にした口元を僅かに笑ませて、彼が言う。
「せっかく貰ったもんだから、ちゃんと美味しく頂きな。中の庭なら日当たりもいいしそんなに寒かないだろ。
食ったらしっかり歯ぁ磨いて身支度すんだよ。後で出掛けるから」
「え」
「ほら、とっとと行きな」
しっしと煩い蚊でも追っ払うように手ぶりされ、紅花は疑問を口に出来ぬままひとまず下を目指した。
言われた通りに坪庭へゆく。
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