六幕の三・道行

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「え?」 と、短い声を溢したきり、紅花はしばし沈黙した。 意図してのことではない。 ただ、急に肝が冷えた。 何故なのか紅花自身わからない。 玉露の言葉の意味を掴みかね、理解が及ばぬにも拘わらずヒヤリとして、固まっている。 「だからさ」 呑み込みの悪い少年の反応に、 玉露は面倒くささを覚えてか、幾分投げやりな声音になった。 「あんたもああいう檜舞台に上がってみたいかと訊いてんのさ」 そこで玉露は一つ、息を吐く。 「すっかり忘れちまってるみたいだけどね、陰間ってなあ、陰の間、つまり舞台袖で修行する半人前の若衆のことを云うんだよ。ま、昔の話だけどね。  今じゃ陰間なんて単に色売りの男娼妓でしかないけどさ、元は立派に役者の下積み修行だったわけだよ。  あたしの哥さんが誰だったか、いくらあんたが鳥頭だって覚えてないじゃあないだろ?」 訊かれて尚、紅花はまだ硬直したきりである。 ますます目を大きくして玉露を見つめているばかりだ。 返事がなければ会話にならない。 玉露はつんと顎を反らして、半ば(はす)に構えた。 一方通行となってしまった会話を、やはり幾らか面倒くさそうに繋ぐ。 「そりゃ、あたしはこんなだからね、役者になりたいなんざこれっぽちも思いやしないよ。  男と遊んでなんぼ。舞台でおひねり貰うより、酒気を浴びながら乳繰り合うのが好きなんさ」 玉露にしては下品な言い草である。 紅花はその(さま)にただ圧されている。
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