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まさか、五十人百人とは言わないまでも、
両手両足の指では足りないくらいの人数が『梅に鶯』の二階、奥の座敷に集まろうと言うのである。
しかも、宴席などで団体客が来る時は普通、みなひと塊でやって来るものだ。
仕事仲間や気心知れた顔馴染み同士や、普通そうした集まりで宴席を設けるからである。
しかし今夜の宴はそうではない。
身形も年頃も、普段の立場も、てんでバラバラな玉露の客らが、
それぞれの方角からそれぞれの都合をつけて寄り集まる。
二人、三人と連れ立っているのは稀で、多くは独りずつ、ひょいと屈んで暖簾をくぐり、奥の上がり框を跨ぐ。
よって、紅花は短い時間に何度となく、廊下を、階段を、行ったり来たり、
まるで振り子の反復運動の如くに際限なく足を運ばされる羽目になったのだった。
膝が笑うのも無理はない。
ようやく、最後と思しき客の案内を終えた時、紅花は深く溜め息して、
許されるならこの廊下に大の字になって寝転がりたいと思った。
勿論、そうは問屋が卸さない。
少し乱れてしまった裾を直すと、紅花は休む間もなく玉露の私室へ向かった。
玉露はすっかり身支度を終え、姿見の前に立って最後の確認をしているところであった。
結いたての日本髪が艶々として、馨しい。
よもやこの陰間茶屋で、水下げでもなく身請けされたでもなく、自身が祝われる日が来ようとは、
さしもの玉露も想像だにしたことがない。
思案の末、彼は常と変わり映えない装いを選んだ。
何を気張る必要もあるまい。
とは言え、しばらく休んでいる間に衰えたなどと、例え毛ほどであろうと思われるのは彼の矜持が許さぬ。
念入りに化粧を施し、紫を刷いた目元は艶っぽく、口角の締まった唇は紅色に濡れ、
計算された着こなしは、客を誘う隙を作りながらも付け入る隙を与えぬという矛盾を見事に調和させ、
華美でありつつ高い品位を備えた艶姿に整えた。
が、それもまた、常通りと言えばそうなのである。
水浅葱の柔らかな濃淡に雪輪、春待ち顔の土筆にフキノトウ、
面白みのある珍しい染め模様の着物は格別高級な品ではないが、
しっとりとした絹の質と澄んだ色が玉露の珠の肌を惹き立てる。
重ねた袿は鬱金の耀き。
貴き紫の濃い薄いの帯が全体を引き締めながら、妖しく前に垂れ下がる。
「揃ったかい」
そう言って振り向く玉露の立ち姿に、
紅花はこれまでの労も忘れて、うっとりと見惚れた。
秀でた額の近くには珊瑚の紅色を連ねた簪がしゃらと揺れている。
その揺れさえも麗しく、花の香りを漂わすかに思われる。
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