こいねがう

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こいねがう

 満月の夜は嫌いだ。  その満天下(まんてんか)浩然(こうぜん)と照らす(ひずみ)のない美しさに、我が身はこの魂ごと()がされてしまうから。  新月の夜は嫌いだ。  光と馴れ合わぬ真の闇夜は絶大なる妖力(ちから)(もたら)すが、それでもなお無力な我が身をどう慰めたらよいのかわからなくなってしまうから。  この身は、決して朽ちぬ。  この魂は、決して果てぬ。  この無下(むげ)たる想いは、決して―――実らぬ。  さりとて、我はただ()うるのみ。  さらでも、我はただ彷徨(ほうこう)するを選んだ。  さらずは、我が恋情(れんじょう)をどうするもできず。  さりとも、我には捕まらぬ蝶を仰ぐのみ。  忘れられるだろうか。  この無極(むきょく)とも言える想いを。  思い込めるだろうか。  この想いを小夜(さよ)漫然(まんぜん)たる夢幻(むげん)と。  それは浩々(こうこう)たる光を放ち、我を魅了して果てぬ美しさ。  幾歳(いくとせ)、幾千年へ経ようと、変わらぬまま我を陶然(とうぜん)とさせる。  どんなに憎もうと―――愛そうと。  月華(げっか)は変わらない。  闇を背負い、猫は月を仰ぐ。 月光を集め、蝶は月よりも輝く。  闇から生まれし真黒猫(まくろねこ)は、月から生まれし真白蝶(ましろちょう)(こいねが)う。
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