過ちの一夜

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『花菱銀行』の阿川頭取との会食を終えた専務は酔っていた。私は専務を気遣い、『梁山閣』近くの老舗ホテル『ベルモンドホテル赤坂』の部屋を一室リザーブした。 「専務、それでは明日朝七時にお迎えに参りますので…私はこれで失礼致します」 私は専務のビジネスバックをソファに置いて、一礼した。 「お疲れ様、成瀬さん」 専務はいつもの労いの言葉をくれた。 私が踵を返した途端。 「!?」 専務が私の右手を掴んで来た。 「せ、専務!!?何の真似ですか?」 「父から成瀬さんを慰めてやれと言われた・・・」 「えっ!?」 常務はいつ専務にそんなコトを・・・ 「失恋の痛手なら、もう癒えてます・・・ご心配には及びません」 「昨日の今日だろ?成瀬さん」 「そうですが…私は立ち直りが人よりも早いんです」 「目を真っ赤にするまで…泣いていたんだろ?」 専務は私のカラダを強引に引き寄せて、後ろから抱き竦めて来た。 ・・・全身が専務の香りに包まれる。 「専務・・・」 こんなにも専務と密着したのは初めて、急ピッチに鼓動が高鳴った。 「専務・・・離してください・・・」 「俺とずっと居て・・・今まで何もなかった女性は成瀬さんが初めてだ」 「私達は専務と秘書の仲。 何もないのは当たり前で・・・」 私が逃げようとジタバタする程、専務の腕の力が強くなっていく。
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