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「では、失礼します、クロノス」そういって、軽く会釈したのは市枝という女性だった。
「僕が聞いたのは、東丈氏は、超常現象研究家であり、作家で・・彼の書いた”太陽の戦士”という作品がハリウッドで映画化されるので、渡米していて、僕と一緒に、遭難したということ、くらいかな」神殿の外に出たドナーは、どちらにともなく言った。
誰かに話しかけるというより、対人恐怖の気の或るドナーとしては、内心の緊張の表れとして、無意識におしゃべりになる場合があった。
「確かに、あの飛行機には、偶然にしても多くの超能力者が搭乗していたけど、彼が能力者として開花している様子は無かった。それくらいのことは、いやでもわかっちゃうんだ、僕は」
「それが、幻魔”さたん”の狙い目でもあったんだべ。東丈ほどの能力者となったら、能力に開花したら、あの人でも手に負えなくなるからと・・教団のみんなで、”さたん”と一緒に、あのDC-8に念を集中したんだ」
「ラチルも?」
「うん」
「ラチル・・あなたも、幻魔”さたん”の教団の人間だったの」さすがに、市枝が立ち止まる。
「うん」
「よく、”さたん”の仲間なんか出来たわね。彼らは、いわゆる押しも押されもせぬ暗黒カルトだったのに、でしょう?」
「あたし、悪い子だったから」ラチルは、暗い眼をしていった。
「でも、今は、彼女は違うよ、市枝。それは、わかるでしょ、あなたも」
「ええ、わかるわ。わかるけど、でも・・いや、ごめんね、ラチル、わたしも、人のことは言えないわね。確かに、わたしも、CRAの大角先生に導かれるまでは、世を呪い恨む、不良のスケ番だったのだから」
「あなたが、スケ番?なんか、信じられませんが」
「そうですか」
「たぶん、人は、幻魔と太陽の戦士の間を行き来する存在なんだべ。いつまでも幻魔であることもないけど、太陽の戦士だから、ぜったいに幻魔にならないって保証も無い」
「そのためにも、反省が必要なんですね」
「反省?」
「ああ、これはCRAの大角先生の受け売りなのだけど、悪しき心に陥って、幻魔にならないように、一日に一度は自分の心が正しい側にあるかどうかを自分でチェックする、そういう作法をするようにと、教えられたの」
「ふうん・・」
「自分でも、最初は良かったはずなのに、いつの間にか、悪い心になってしまっていたってこと、あるでしょう?」
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