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「その点は・・あたしは、確信犯だったんだ。きっと、生まれたときから、悪魔ちゃんだったんだべ」
「ああ、そんな、そんなことはないわ。人間、誰も、赤ちゃんのときは天使なんだって、大角先生が。ごめんね、わたしの言い方が悪かったわ。あなたの心がどれほど傷ついているかも知らないで、勝手なことを言ってしまって」
そういうと、市枝はひざを折り、ウサギ風のマントをまとったラチルをぎゅっと、抱きしめたのだった。
そういうことか。
ラチルの母親は特段の超能力者ではなく・・そのために、生まれついての超絶能力者であったラチルが理解できず、恐れ、忌み嫌ってしまったのだ。
離婚したタイガーのことを恨んでいた結果でもあるのだろう。彼女は離婚したとはいえ、結婚当時の夫の職業にまったく理解は無かった。ただ、大学の教授であるという収入と地位だけを愛していたのだった。さもなければ、あんな風采の上がらない男と結婚などしなかったからだ。しかし、彼女は、その自分の内面の事実にまったく無自覚だったのである。
その瞬間、ドナーの心に、その事実が流れ込んできたのだった。
「・・・」ラチルは、市枝の抱擁を甘んじて・・拒否することなく目を閉じて受けた。
ラチル・・レイチェル・エレナ・タイガーが、彼女の言う実年齢より格段に貧弱な子供じみた体型のままだったのは、彼女の心がそういっては何だろうが、傷つき、成長を望まなかったからなのだろう。彼女の超能力は肉体の成長をも制御していたのだ。
しかし、実際がところは、ラチルは、暗黒教団に身を置いていたが、本人が考えるほど染まっていなかったのだろう。
それは、彼女にとってよかったのかどうか。そのために、幻魔世界では長く”いじめ”の対象として、むしろ苦しめられる側になってしまったからである。
「ごめんね」
市枝の体から、ほのかな光が発せられた。それは、ドナーにも快いものだった。
”かわいそうに・・”それは、安直な同情だったかもしれないが、しれないが人というものの普通の素直な心情ではないのか。
この薄幸の娘にも、それなりの幸せがあるべきだ。神よ・・この余に神があるならば、この子にも、幸せをあげてほしい。
そんな殊勝なことを今まで一度も考えたことのないドナーであった。
ことさらに人の不幸を祈ったことも無いが、幸せを祈ったことも無い。
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