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「え・・」最初に声をあげたのは、ドナーだった。
気がつけば、3人は古い旅客機の客席の間の中央廊下に立っていたのだ。
「もしかして、DC-8の中?」
そこはかとない記憶がある。 もう何年前の話だろうか。あの遭難の日から。
ただ、ドナーが理解しているのは、不気味な暗雲の中に突っ込んだまでは覚えているが、乱気流に巻き込まれたという明確な記憶の無いままに、気がつけば、あの亜空間世界で、部屋の木の椅子の上に座っている自分に気がついたのだった。いや、ベットの中だったか。とにかく、そこらの記憶もあいまいなまま、意識が戻ったのだった。
「そうだべ、ドナー」ラチルが言った。
「この機体は・・この飛行機は、不思議な飛行機なんだべ」
「何が、不思議なんだい、ラチル」
「この機体はね、”消える”運命の機体なんだわさ」
「???」
「ドナーは、覚えているかな、あの有名なルーナ王女の予知事件を」
「?どうだろう、うわさに聞いたことはあるかもしれないけど、覚えていないかも。ルーナ王女は超能力者として、いろんな奇跡を起こしたと有名な人だからね」
「1967年に、ヨーロッパからアメリカに渡るとき、乗ったのがこれなんだ」
「もしかして、”この世界"では、王女の予知で、出立を5分だけ遅らせたら・・太平洋上で起こった隕石雨に巻き込まれなかった・・」
「そうだべ、よく知っているな、市枝」
「まあ、大角先生は、ルーナ王女の死を本当に悔やんでおいででしたから。その事跡を、日本から追悼していたのです、わたしたちは」
「もしかして、市枝は別の世界の記憶も持っているのではないか」
「ええ、そうよ、ラチル」
「?」
「それは、私が生きた、あなたたちと同じ世界とは違う世界の記憶。その世界では、あの遭難しなかった飛行機が、定刻どおりに離陸したために、突然起こったあの隕石雨に巻き込まれて墜落してしまったのです、ドナー。そうよね、ラチル?」
「ちょっと、合っているけど、間違えているべ」
「え・・・どういうこと、ラチル」
「ルーナ王女も、あの隕石雨の中で一人、虚空にほうりだされたと思ったから、破壊され墜落したと思ったのだろうけど、実際は、同じように、あの隕石雨の”場”に巻き込まれて、この異次元に放り出されてしまったのさ」
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