もふもふのレイチェル

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「きみが・・・ラチル?」 彼女の言葉に、ジョージ・ドナーは、その目をメガネの奥でぱちくりとさせた。 「ええ、そうなンよ、ドナー」目の前のやせた、目ばかり大きい貧相な少女が、申し訳なさそうに言った。「あたしが、あのラチル・・本名はレイチェル・エレナ・タイガーマンなんだけど」 「ラチルではなく、レイチェル」どうしても、ドナーの頭の中で、その”事実”が理解できないのだった。「しかし、ラチルは、死んでしまった・・」 「だから、あれは、わたしのアバターなんよ」 「アジャパー」 「あなた、日本人なン?」 「いや・・違うけど」 「だから・・あたしは、マ王の”中”に生きたままとらわれていて、そのマ法で、あのラチルの姿をとって、この幻魔世界で生きるように仕向けられたンよ」 「あの・・ウサギ人間というのは」 「わたしの仮の姿なンだべ」  ウサギ人間のときには、それほど感じなかった訛りが・・あのウサギの人語を話すには間違いなく不自由そうな口で話すので、案外にテレパシー中心だったこともあり、気にならなかったのだが、こうして、人の女の子の姿になると、話は別のようだ。ひどい南部訛り。 「でも、ラチルは死んでしまった・・死んでしまったんだ、あの犬人兵士どもにひどい拷問を受けて」しかし、半ばドナーは何も聞こえていないかのように、呻くようにいった。 「あたしが、ラチルが死ぬのは、あのときが最初ではないンよ、ドナー」 「初めてでは、ない・・」 「ええ、この幻魔世界では、生身の、ドナーたちのような”漂着者”は違うけど、私たちマ王の囚われ人は、特に、そんなに戦う能力のない超能力者は、何度も、何度でも、このクソみたいな世界で殺されるようにできているンよ」 「何度も殺される・・?」 「そうよ・・そうして、マ王に反抗しようって気持ちをくじけさせるの」 「何度でも殺されるって・・」 「どのくらいで・・とは一概に言えないけど、マ王の気持ちしだいで、そのうちに、どこからともなく、わたしたちは生き返らされてしまうンよ。あんなひどい経験をしたのにね。なんども、なんども、なんども、なんどでも・・!」  レイチェルは、そう言って、頭を抱えて座り込んでしまった。おぞましい記憶を、思い出してしまったのだろう。 「・・・」しかしドナーは、固まってしまった。
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