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「男とねた女を穢れた女というのなら、そんな女を抱く男はいったい何様なんよ」
「う・・・ぬ」
「”穢れた”としたら、そんな下種な男たちと寝ることを楽しんだ女の、”乱れた心”ということなんでしょ」
「・・・」
「よいといえるかどうかはわからないけど、男がスケベなように、女にもスケベな面はある、それだけじゃねえべか。男どもが、とっかえひっかえ女と寝ることが許されて、女はダメなんて、話がおかしいと思わないか」
「・・・」
「大人になれば、ほかの動物たちも、番って、子供をつくり、種族を残そうとする。それだけのことじゃねえか」
「だから、そういう繁殖がなんとかってことじゃない。私が、東丈先生を呼び戻そうとするのは」
「わかってるべ」
「え・・・」
「市枝、おまえは屈折してるんだべ」
「屈折してる?」
「まあ、その東丈ってのが、なまじのハンサムだから、自分が恋しているかもって思って、自分のようなみだらな女が、そいつに、そんな思いを持ってはいけないと、妙に無理やりに押さえ込んでいるべ」
「でも、その屈折が、彼女をここまでやってこさせた。それが原動力だった。違うかい、ラチル」
「わかるべか、ドナー」それは、明らかな、同意だった。
と・・・
不意に、市枝は、空いている座席に座り込んだ。そうしないと、このままDC-8の廊下にへたり込んでしまったに違いない。
「そんな・・そんな」
「市枝、もう、許してあげてよかんべ、自分自身をいじめるのは、そこまでにするべ」
これまで、必死に東丈を追い求めてきた衝動が、見る見るその内圧を下げていくことがわかるからだ。これは、東丈に恋するわけでもない、自分の中でも、いかに”反省”しようとわからなかった圧倒的な衝動だったのである。
東丈を見つけて、男と女のややこしいことをしたいわけでもない、それは明らかだった。
ただ、彼と会って、取り戻さねばならないという盲目的衝動で、市枝ははるばるここまでやってきたのだ。
しかし、今は、わかる・・わかってしまう。
市枝は、これまでの人生で、自暴自棄になって何人もの男とみだらな行為を重ねた自分が許せないのだ。それを、東丈を見つけ取り戻すことで、免罪としたい。
ほかでもない、無意識のうちに自分で自分を断罪していたのだ。
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