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「そこは、気合で押し通すべ」
「エンタープライズ号、発進!」
「はあ?」
ぐいいいん・・
というエンジン音もないままに、DC-8は、静かに発進した。
「あのワープ空間って、この異次元世界と一緒なんじゃないかと考えているんだ。それだから、宇宙の果てまで、一瞬で到着することが出来る」
うるるる・・
異次元世界を飛行するのは極彩色の揺れる虹のトンネルの中を航行する感じであった。もっとも、それはドナーの主観であり、同じものをラチルたちが見ているかどうかは、保証の限りではないことも理解しているつもりだ。
「で、どっちにいけばいいのかな、ラチル」
「あっちだべ」
ラチルは、窓の外を指差す。前方だが、少し右、らしい。
「了解」そういって、市枝が動かした。
かすかに旋回の遠心力を感じるのも、自分の錯覚ではないかと思われるドナーだった。時空があって無きが如しの四次元空間など、人間の五感の理解を超えた世界なのだ。
「?」
「どうしたの、ラチル」
「・・そういうことか。ちょっと気をつけてよ、市枝」
「といわれても・・」
「大丈夫、ちょっと気をつけるだけで良いべ。本当に歴史が変わるのは、ここより少し先の話だから」
「???」
「この先で、歴史が分岐しているんだべ。ひとつは、市枝もしっている世界。もうひとつは、似ているけど、市枝もあまり知らない世界」
「あまり・・?」
「うん。もしかして、市枝、自分が子犬だったって記憶はないかな」
「????」
「その様子だと、ないようだね」
「・・・ええ」
「いいよ、思い出さないのなら、それはそれで。そんな大したことではないのだから」
「そう、なのね」
「まあ、いずれ思い出すことがあるかもしれないけどね、それは、まあ、そのときのお楽しみということで」
「?」
「どうしたべ、ドナー」
「何か、感じるんだ、ラチル。君は、何か、感じないか」
「何か・・?・・・しまった、市枝、緊急避難するべ」
「え、どこに」
「どこでもいい、右でも、左でも、上でも、下でも、とにかく、このままいかないで、いっちゃだめなんだ・・」
「そんなこといわれても」
「操縦桿を引いて、市枝」
「だめよ、動かない」
「ええ・・」
「”そこ”に引っ張られているの!」
「とにかく、方向転換して、フルスロットル!」
「で、でも、だめ~~~~」思わず、市枝が叫んだ。
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