もふもふのレイチェル

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 おそらく相手がウサギ人間の小娘ラチルだったら、簡単に動いた手足が、生身の人間となったとたんに、何も出来なくなってしまったのだ。  というか、何をどうしたらいいのかかわらなくなってしまったのである。正直に言って、対人恐怖の気のあるドナーは、それが年端の行かない女の子であっても、その恐怖の対象になってしまうのだった。だからこそ、家のガレージを改造したラボでシコシコと、オーダーメイドの音響装置を作っては生業にしていたのだったから。女の子の年齢なんて想像も出来ないが、まだ十代前半なのは間違いなさそうだ。その意味では、あのラチルと同じ年ころなのは納得できる。一旦、ウサギ人間の姿に変換翻訳しないと目の前の少女に普通にも対応できない、そういう屈折が、ドナーにはあった。  ある意味、レイチェルに対しては、彼がそれまで、人として日常生活の中で見知ってきたその年代の女の子と向き合ってきた・・それ以上の屈折振りだった。  女性に対して興味がないわけではないが、どうにも、人間というものが苦手で、いまだにまともにデートしたこともなく、あまり人には言わないが、ドナーは、まだ女を”知らない”  繰り返すが、それはドナーが女性よりも男性を嗜好するからということではない。彼の超能力が、災いしているのだ。  彼はテレパス、いわゆるテレパシー使いであった。それも天然の。ただのカンがいいくらいのレベルなら、まだかわいいのだが、彼の場合は、もっと具体的に人の心がつかめてしまうのだ。  それは無用に耳がいい以上の弊害があった。言葉はまだしゃべらなければそれまでだが、思考は、しないわけにはいかない。ドナーは、それが勝手に向こうから聞こえてしまうのだ。思念を集中すれば、ドナーも相手に対してそれに近いことをすることができるのだが、ドナーが集中を必要とするその逆に、相手のそれはまるで彼らが大声でそれを連呼しているようなものなのだから始末が悪いのである。  長じて、それがドナー固有の現象だと理解できるようになってからは、控えるようになったが、幼いころにはそれが自分だけに起こっているとは思わず、いわゆる”大人の秘密”も、何も考えずに暴露してしまい、叱責されることも一度や二度ではなかったのである。その幼いころの経験が、ドナーのトラウマになったとしても、何の不思議もないだろう。
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