もふもふのレイチェル

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 あるいは、あらかじめ彼らには明らかにしなかったが、彼らを送り出した存在は、今回の討伐隊がこの結果になることをあらかじめ知っていたのではないだろうか。それを詮索しても、意味のないことだと、今のドナーは考えている。  いまや、かつての幻魔世界は、その当時からすれば、よほどかまともな世界になっていた。討伐隊の出発点となった”異次元回廊の亜空間”と同化して、巨大な秘密基地に変化していたのである。今、マ王は、真王として、かつてのマ宮、今は光り輝く神殿となったこの異次元世界の中心の玉座に、白い浄衣をまとってその巨体をくつろがせていた。  マ王の核となった”幻魔総司令シグ”の心の中にあった”人としての良心”が前面に現れた格好だ。彼は、幻魔にのっとられる前は、なかなかに理知的な紳士であったのだ。  しかし、ここは、基地ではあるが、戦士の休憩所である要素が強い。ここで英気を養い、あるいは新たな潜在能力を開花させて、厳しい戦場に戻っていく・・そういう場所なのだ。  ただ、繰り返すが、対人恐怖症の気の在るドナーは、なんだかんだといって、もうそれぞれが彼らの時代、彼らの国に戻っていったというのに、ずるずると長居をしているのだった。  よくわからない流れの中で、ギリシャ人の超能力少女クロノスが、この秘密基地”アーク”の総責任者・提督ということになった。マ王は、このアークの船長といったところだ。ドナーは雑役係といったところで、うろうろしているのだった。  クロノスの手伝いをするのなら、それはそれで新しい彼の仕事というものだろう。無論、この元幻魔世界、亜空間世界にいた全員が帰ってしまい、無人になったという極端な話も、ありえないわけで。その意味では、ホテルや病院に近い施設ということがいえるだろう。  能力によっては、これで世界に戻れば、おそらくもう二度とここには戻ってこれないだろう超能力者もいれば、自室を行ったり来たりするように自由に行き来出来るようなソニーたちのような能力者もいる。  自分はどっちなんだろうと、ドナーは迷っている。対人恐怖の気の在るドナーが珍しく愛した亡きラチルのいた場所だというのも、理由としては大きなものであったのだ。
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