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あたしはもうすぐ世界へデビューする。
薄暗く暖かな部屋の中、やわらかいベッドの上で寝返りをうつ。
「ヨシくん、いまこの子がお腹をけったよ。」
「ほんと?ユミちゃん触っていい?」
大きな手がユミちゃんことあたしのママのお腹にふれる。そう、わたしはもうすぐ生まれる赤ちゃん。
今でこそこんなほのぼのした生活をしているけど、以前はそうじゃなかった。
あたしを妊娠した時、ママはまだハタチだった。ヨシくんことあたしのパパともまだ恋人同士で、今みたいに結婚してなかった。
幸運だったのは、ヨシくんがとても好青年だったことだ。ママより5歳年上の25歳。精神的に不安定になったママを支え続けてくれた。おかげさまで10ヶ月、あたしはママのお腹の中でゆったり過ごすことができた。
10ヶ月もお腹の中にいると、自然と外の世界に詳しくなってくる。あたしのママはどこへ行っても美人といわれる。対象に、パパはクマさんタイプらしい。どうかママ似の美形に生まれますように・・・。お腹の中から神様に祈ってみる。
そしてその日がやってきた。
ママは散々陣痛で苦しい思いをして、あたしを世界にデビューさせてくれた。まだ目がよく見えない。ママやパパがどんな顔をしているのか、その日はわからなかった。
数日後。
「パパそっくりだねー」
「ほんとほんと。特に目のあたりがね」
ママやパパ、その家族たちに囲まれて、あたしは我が家にいた。どうやらあたしはパパ似に生まれてしまったらしい・・・。
「そういえば名前はもう決まってるの?」
「はい、きららです。星って書いて、きらら」
おまけにキラキラネームかよっ。美形ならともかくくまさんタイプなのにっ。
「きらら、大好きだよ」
ママがギュウとあたしを抱きしめる。ああ。
美形にもなれなかったし、キラキラネームなんかつけられちゃったけど。
温かい腕につつまれて、あたしはこの家庭ですくすくと育っていくのだろうな。
ママ、産んでくれてありがとう。
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