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その店を見つけたのは新学期が始まって少ししてからの帰り道でのことだった。
目新しいことでもないか、とあずきは一人、いつもとは違う帰り道を歩いていた。
普段は駅前の大通りを通るのだが、この日は一本道を反れた細い道を通っていた。
大通りは商店街で色んなお店が並んでいるが、その道は少しさびれた駄菓子屋や理髪店の並ぶ古い通りだった。
ぶらぶらと歩いていると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
香りの元をたどると、今いる所から少し歩いた所に、時間が経って色あせてしまっているレンガ調の喫茶店があった。
古い木の扉の上にはネオンで「喫茶オルレアン」という文字。
扉の横の黒板にはおすすめメニューが書かれている。
「こんなところに喫茶店なんてあったんだ…」
黒板には、本日のスイーツと本日のお食事が書いてあり、スイーツの欄にはチーズケーキとモンブランとアイスわらびもちと書いてあった。
好奇心で店内に入ると、カウンター席に中年の女性と店員の背の高い女性がいるばかりで他は誰もいなかった。
「いらっしゃい」
ハスキーな声で店員が声をかける。
「好きな席にどうぞ」
言われてあずきはコソコソと奥の席に座る。
テーブルの上のメニュー表を見ると、1ページ目にコーヒーの名前がたくさん並び、その隣のページには紅茶の名前がたくさん並んでいた。
次のページからは食事メニューらしく、オムライスやナポリタンと言ったレトロなメニューが載っている。
コーヒーの種類や紅茶の種類なんてよく分からないままメニューを眺めていると、先ほどの店員が銀色のお盆にラムネ色のグラスにレモンを浮かべた水を乗せて持ってきた。
「何にするか決まった?」
柔らかく聞かれると、あずきは困ってしまった。
「えっと、どれがどれだかわからなくて…」
恐る恐る言うと、店員が柔らかく微笑む。
「コーヒーか紅茶かどっちがいい?」
「え?えっと、紅茶で…」
「普段はミルクティー?それともストレート?」
「ミルクティーをよく飲みます」
「なら、アッサムティーがいいよ」
そう言われ、あずきは
「じゃあそれで…」
と言うと、店員はカウンターに戻っていった。
少しすると、同じ銀色のお盆にティーカップを乗せて店員が来た。
「どうぞ」
差し出された金色の縁の陶器のティーカップを持ち上げ、一口、飲んでみた。
ふんわりと柔らかい紅茶の香りが口の中に広がった。
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