第1話「めざめよ赤き戦士」

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第1話「めざめよ赤き戦士」

 西暦2030年。日本に未曾有の危機が訪れていた。  折からの少子高齢化の加速はもはや止められないものとなり、そこら中高齢者だらけ。政府の公表したデータと実質的な賃金状況の乖離も10年ほど前から国民の知るところとなった。  この時代、日本国民の平均年収は驚異の390万円台にまで落ち込み、巷では生きる希望も、貯蓄もない姿勢の人々の嘆きの声がひしめいていた。  そして今、悲憤の感情が充満する日本で、暗黒世界からの恐るべき挑戦者『蜻蛉党(かげろうとう)』の暗躍が始まろうとしていた。 「行って来ます……」  早朝、古めかしく汚い外観の団地の階段を、無気力を絵に描いたような青年が、背を丸めながら降りていく。  目の下にはクマが出来ており、視線はうつろ。髪も数日洗っていないのか、遠目にもギットリとしたいやらしい艶を放っているのが誰からも見て取れるような有様であった。  彼の名は藤井ゴウスケ。24歳のフリーター……と言えばまだ聞こえは良いが、実際には就労などほとんどしていない。ゴウスケはスロプーと呼ばれる、みみっちいギャンブル中毒者の端くれを、もう18のころから続けている。     
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