第一章 あの頃

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 あの頃・・・電話は固定の黒電話。携帯電話は未だ無かった。ポケベルも未だ無い。彼女の部屋には黒電話があった。それが唯一の通信手段だ。大学の友人には彼女の電話番号は教えてなかった。だから、僕には誰からも電話は来なかった。それを寂しいと感じたこともない。実は彼女には京都に以前付き合っていた男性がいた。高校の同級生らしい。月に一度程、彼から電話が来る。彼女は私がいても気にせず元彼と楽しそうに長電話をする。僕は嫉妬でやるせない気持ちになり、不機嫌になる。二年前に付き合いだした頃、彼女は二又を掛けていたのだ。未だ同棲する前の事だ。僕は世田谷にアパートを借りていた。夜中、彼女から電話があり「寂しい・・・」と言った。夜中の1時頃のことだ。電車ももう走っていない。僕は地図を見ながら世田谷から西荻まで歩くことにした。2時間ほど歩くと彼女のアパートにたどり着いた。それから僕たちは一緒に暮らし始めた。彼女は彼と 別れたらしい。彼は設計士を目指していたが、3浪して未だ浪人生だ。そして僕を選んだ。そう、彼女は僕を選んだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加