腕枕

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反省したり、我慢ができなくなってお酒に手を出したり、そんな日々を過ごしているうちに一週間が経ち、月曜日になった。専門の医師が居るという病院へ行く日が来たのだ。 「紹介状、何て書いてあるかな。ドキドキする」 「俺もドキドキするよ。良い病院だったらいいな」 その病院は加奈子の家から電車で30分程の距離の場所にあった。受付を済ませると、待合室で順番を待つ。アルコール専門の医師がいる病院といっても、専門の科があるだけで、全体的には大きな精神科の病院だ。色々な患者さんが待合室で順番を待っている。一見精神を病んでいる様に見えない人が殆どだ。 3時間位待っただろうか。 「待合室にある、テレビのモニターの様な画面に加奈子が受付で貰った順番票の番号がチカチカと点滅を打っていた。 「私の番みたい」 加奈子は緊張して夫の腕を握った。 「うん。行こう」 夫に引っ張られるように二人は診察室の中に入る。 中には医師が座っていた。 「初めまして。斎藤さん、児玉といいます。紹介状を見ました。アルコール依存症と書いてありますが、間違いないですか?」 30代半ば位の小柄で可愛い女性医師が真剣な顔をして、パソコンを前に加奈子に質問を投げかけてきた。 「はい。お酒の事で悩んでいます」 「この紹介状には抗酒薬もダメだったと書いてありますね」 「飲まなくなってしまいました」 「入院しましょう」 「えっ?」 入院?いきなりそんな・・・ 「今日はこのまま入院していって下さい」 それは無理だ。仕事だってある。 「先生、通院でどうにかならないでしょうか?」 「斎藤さんの場合は入院する事が一番だと思います」 加奈子は肩を落とした。 「加奈子、入院しよう」 夫が椅子から立ち上がると加奈子に近づいて肩を叩く。 「でも、このまま入院なんて、何の準備もしていないもの」 「皆さんそうですよ」 医師がパソコンに何やら打ち込んでいる。 「必要な物は、売店で揃います。会社には診断書を書いておきます。入院でいいですね?」 加奈子は何ていったらいいのか言葉に悩んだ。すると夫が 「先生、お願いします」 医師に頭を下げている。
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