腕枕

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買って来た物が少ないので、持ち物検査は直ぐに終わり、個室に案内された。個室は案外広く、ベッドの他に洗面所が付いていた。広い個室にそれだけだ。テレビも冷蔵庫もない。こんな場所で3か月間も過ごせるのだろうか。加奈子は不安になりベッドに腰かけて夫に泣き言を言った。 「やっぱり帰りたい」 「そうか。帰ってどうする?」 また、飲酒をする生活に逆戻りだろう。 そんなのは嫌だ。 「我慢する。一人で眠れるかな?」 「睡眠薬をだして貰えばいいだろう。精神病院だから大丈夫だと思うよ」 そうだ。これから精神病院の閉鎖病棟に入院しなければいけないのだ。加奈子は緊張した。か細い声で夫に 「毎週お見舞いに来てくれる?」と聞いてみる。 「うん。土曜日に来るようにするよ。何か欲しいものはある?」 「でも、ここ殆ど持ち込み禁止みたい」 「ああ。そんな感じだな」 二人で必要な物の相談をしていると持ち物検査をしてくれた男性の看護師さんから呼び出しがあった。案内されてナースステーションの横にある個室に入る。先ほどの児玉医師とふっくらとした、加奈子と同じ年位の女性の看護師さんが待っていた。 「こんにちは。斎藤さんの担当になった、飯塚です。宜しくね」 良かった。優しそうな看護師さんだ。 「宜しくお願いします」 「一緒に治療していきましょう」 優しそうな笑顔で加奈子を見る。加奈子は同じ年位の女性に励まされてアルコール依存症である事がなんだか恥ずかしくなった。 (こんな私をどう思っているのだろう?) 児玉医師の方を見る。医師は 「斎藤さんは医療保護入院をして貰います。この入院は患者さんの意思関係なく退院する事は出来ない形式になっています。私が大丈夫だと判断したら任意入院になります。そこではじめて斎藤さんの意思が尊重されます」 なんて事だろう。そんな入院の形式があったのか。やはりこの病院に長く居なくてはいけないようだ。
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