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加奈子は個室に戻って早く寝てしまいたいと思った。
「夕飯は6時です。患者さん皆で談話室で食べて貰います。最初だから6時になったら部屋に迎えに行きますよ」
「解りました。それまで夫と部屋に居ます」
「そうそう。それから、面会時間は5時30分までなので、ご主人様には帰って頂きます」
そうか。その時間になったら一人で閉鎖病棟で過ごさなくてはいけないのだな。
加奈子は悲しくなってきた。
毎晩夫に隣で腕枕をして貰いたい。なんでアルコール依存症になってしまったのだろう。
個室に戻るとベッドに座り窓の外を見る。埼玉県の田舎の田園風景が広がっている。流石に鉄格子はついていなかった。
「必ず、土曜日に面会に来てね」
夫にお願いをする。
「約束する。頑張れよ」
「うん」
「退院したらまた隣で寝てくれる?」
「勿論だよ」
「また、おいでって腕枕してくれる?」
「加奈子は子供みたいだな」
夫が笑う。
加奈子も半泣き状態で笑う。
「私、頑張る」
加奈子は夫の目を見つめてそう言った。
「先生、今度入院した斎藤さん、幻覚が見えているようですね」
「ええ。優しい旦那さんがいると思っているみたい」
「あんな、酷い人を?!」
「アルコール依存症だけでは無いのかもしれませんね」
飯塚看護師が背を向けて立っている児玉医師の方を見る。
「斎藤さんには3ヶ月以上入院して貰い暫く治療していきたいと思っています。任意入院には当分しません。それにこの病院、逃げ出す事は不可能ですよ」
児玉医師は飯塚看護師の方を振り返りそう言った。
面会時間も終わりになり、鍵のかかるドアの前では加奈子が夫を見送っている。
「約束ね。また隣で寝てね」
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