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「どうしましたか?今日は旦那さんと一緒?旦那さん、結婚してから一度来ただけだから二度目ですね」
初老のメンタルクリニックの医師が加奈子と夫の顔を交互に見る。
「この前話を聞いたら何だか、他にも悩みがあるみたいで」
夫がこっちを見て目くばせをする。
「大丈夫だよ。悩みを打ち明けたら?」
言うしかないのだろうか。もしかしたら、一人で断酒できるかも。黙っていようか。
(どうしよう。困った)
「どうしました?」
言ってしまおう。悩んでいてもしょうがない。
「実はアルコール依存症かなと思っていまして」
「アルコール?そんな悩みがあったのですか?」
「はい」
「一日にどれ位飲むのですか?」
「焼酎の500の缶を3本位」
「ちょっと多いですね」
「それ以上に飲む事も、朝から飲む事もあるのです」
「そうですか。それは問題ですね。今日は飲んでいますか?」
「昨日の晩飲んで、今日は飲んでいません」
「両手をこう、前に出してください」
医師が手の甲を上にして両手を差し出す。加奈子はそれを真似る。
「震えは無いみたいですね。アルコールがきれると何かありますか?例えば幻覚とか」
「それは・・・無いです」
「飲み過ぎる事を悩んでいるのですか?」
「はい。それに沢山飲んだ時、記憶が無くなる事もあるのです」
「それは、ブラックアウトと言ってアルコール依存症の症状ですね」
やっぱりだ。隣に座っている夫を見る。驚いているようだ。
「加奈子、今迄そんな事言わなかっただろう」
夫はちょっとイライラしている様に厳しい口調でそう言った。
「御免なさい」
加奈子は素直に謝った。
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