腕枕

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「まあまあ。旦那さん、アルコール依存症は本人の責任ではないのです。こうして打ち明けてくれただけでも良かった」 「お酒を飲まずにはいられないのです」 「お酒を飲んだら、落ちこみや不眠は酷くなりますよ」 確かに最近不安や鬱状態が激しい。 「先生、どうしたら良いのでしょう?」 「抗酒薬と言って、お酒を飲んだら気持ちが悪くなる薬をだしておきます。それを飲んで断酒をしてみて下さい」 「抗酒薬?」 「シアナマイドと言います」 加奈子は少しホッとした。それを飲んだらもしかしたらお酒がやめられるかもしれない。 「くれぐれも抗酒薬を飲んで飲酒をしないように気をつけてくださいね。命に関わる事もあります」 「解りました。頑張ってみます。有難う御座います」 加奈子はお礼を言った。夫は黙っている。 診察室を出て、お会計をする為に待合室に二人座っていた。夫との間に何だか気まずい空気が流れる。 「御免なさい。黙っていて」 「いいよ。謝らなくて」 またもや沈黙が続く。少しすると夫が 「加奈子、俺も、お酒をやめるよ。一緒に頑張ろう」 と言ってくれた。 「和也さんはアルコール依存症ではないじゃない。断酒をしなくてはいけないのは私だもの。和也さんはいつもの通り飲んでくれていいよ」 夫まで断酒では可哀想だ。だが夫は 「俺だけ飲んでいたら加奈子も飲みたくなってしまうだろう。しょうがない。二人でお酒をやめよう」 ああ。この人と結婚して良かった。加奈子はしみじみ思った。これでお酒が止められるかな。加奈子は少し安心した。だが現実はそんなに甘くなかった。
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