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医師に処方して貰った抗酒薬は最初のうちはきちんと飲んでいた。なので数日間はお酒を飲まないで過ごす事も出来た。
(案外、簡単なのだな)
加奈子は眠る事のできない悩みがあったがそれ以外これと言って不調は感じられなかった。
(いつでもやめられる)
加奈子はそんな風に思うようになり、10日がたった頃には抗酒薬を飲まなくなっていた。そうすると悪い考えが頭に浮かんでくる。
(これだけ、お酒をやめたんだ。一杯位ならいいだろう。飲んでぐっすりと眠りたい)
眠れない布団の中で何時間もお酒の事を考える。
隣で寝ている夫が心配して夜中に何度も目を覚まし、加奈子を見る。
「加奈子おいで」
腕枕をしてくれようと腕を差し出してくれる。
加奈子は腕の中で朝まで夫に抱きつく。
夫が隣で寝てくれていて良かった。一人だったらお酒を飲まないなんて耐えられなかっただろう。そう思うが、お酒を飲んで眠りたいという悪い考えは頭から離れない。会社の帰りがけに、家から歩いて直ぐの場所にあるコンビニに行って焼酎のサワーを買った。こうなるともう飲む事しか頭にない。気がついた時には酔っぱらってコンビニでお酒を買い足していた。
夜も遅い時間になり、夫が会社から帰ってくる。加奈子は
「おかえりー。お疲れ様」
と呂律の回らない口調で出迎えた。
「加奈子!お前、お酒飲んでるな」
「ちょっとだけだよ。明日にはまたやめるから」
「そんな事を言って、一滴も飲んだらいけないのだぞ」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ。もう怒らないでよ。私は寝る。おやすみなさい」
加奈子はそう言うと睡眠薬を飲んだ。ふらふらしながら隣の部屋に行って布団に入る。
(夫を裏切ってしまった)
後悔が頭に浮かんでくる。
(私ってダメだなぁ)
加奈子はその晩、悪夢に魘された。
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