腕枕

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「おはよう。加奈子。今日は俺は会社を休む。二人で病院に行こう」 「病院って?」 「メンタルクリニックだよ。また先生にお酒の事を相談してみよう」 夫が朝御飯を食べながら、優しい顔で加奈子に話しかける。 「和也さん・・・」 「どうにか、お酒を止めなくちゃ。なっ。そうだろう」 「和也さん、昨日の事は御免なさい」 「俺も、色々調べてみたんだ。パソコンでだけどな。アルコール依存症について色々検索したよ」 「何か。解った?」 「大変な病気みたいだな。けれど、近くにアルコール依存症を見てくれる科がある精神病院あるらしい。アルコール専門の医師がいるみたいだよ」 「専門の医師がいる病院?知らなかった」 「大きな病院みたいだから、紹介状が必要とでているな。メンタルクリニックで聞いてみよう」 「うん。私、そこに行ってみたい」 加奈子は俯いて小さな声でそう言った。 夫はそんな加奈子を見放さないで本気で心配をしてくれている様だ。加奈子はつくづく自分自身が嫌になってしまった。大きな病院に行けば治るのだろうか。 メンタルクリニックに行く日は天気が悪く、しとしと雨が降っていた。朝御飯の後、直ぐに行った病院で医師に大きな病院の事を聞くと、紹介状を書いてくれた。 「その病院なら良い病院ですよ。そうですか。抗酒薬、ダメでしたか」 医師は残念そうだった。 「今度の月曜日も会社を休むよ。一緒に病院に行ってみよう」 夫は加奈子の手を握って、俯いている加奈子の顔を覗き込んだ。 「御免なさい」 「そんなに謝るなよ。病気なんだから」 夫は何時でも優しい。加奈子は自己嫌悪に陥った。
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