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部屋の電気は消されキャンドルをいくつもの場所においてあるのがすりガラス越しに見える。
一度コーヒーをおいてドアを開ける。
にぃー、とわらって彼が私に抱きついてきた。
意味がわからない。いや、わかるようなわからないような。
ナンデスカ?
心の声。
すると抱き締められた左薬指に何かの感触がある。
「?」
さらにぎゅぅと、抱き締められて、そっと離れると。
「名字、変えない?」
薬指には指輪。目の前には私の分だけが埋まっていない婚姻届。
今度は私が彼に抱きついて泣いた。ぎゃんぎゃん泣いた。うれしくて。
「俺たちはさ、いっしょにいよう、ずっと。二人で手をとっていよう?子供も素敵だけどさ、ふたりっきりの時間をずっと楽しみたいんだ」
うんうん、と私は頷く。
「ちゃんとした形とるまで待たせてごめんな」
ううん、と私は首を振る。
「うれしい」
かすれたような声でしか言えなかった返事。
私には妊娠はもう不可能だったから。
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