春嵐の誉れ

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(おお……)  ある春の放課後、私は昇降口で待つ先生の姿を見て、思わずほうっとため息をつかんばかりに感嘆した。  外は雨が降っている。  雨、なんて淡い響きのある一文字で済むような生半可なものではない。  大雨だ。嵐だ。大雨をまとった春一番だ。  朝は晴れていたのに、放課後になって雲行きが怪しくなり、急転直下のこの空模様。  先生は昇降口の出先の(ひさし)の下で、憂いを帯びた表情で空を品定めするように見上げては、困ったように思案している。  見るからに雨宿り。きっと傘がない。  先生。()(なみ)(ゆう)()(ろう)先生。  担当教科は古典。若い。眼鏡。  スーツが似合う。シュッとしてる。  あの眼鏡のフレームの側に見える泣きぼくろが超絶エモい。無理。 (好き……)  何を隠そう、私は先生のストーカーだ。  いや、先生がこうして昇降口で雨宿りしている場面を目撃して驚いている以上行動は把握していないわけだから、厳密に言うと半ストーカーだ。  放課後は先生と一緒に帰るべく待ち伏せをしているのだけど、なかなか巡り合わず、斥候行為もうまくはいっていない。
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