8人が本棚に入れています
本棚に追加
「野波せーんせ!」
偶然を装い、声を掛ける。
「あれ、武藤さん。まだ残ってたんですか? 今日は実力テストだから完全下校のはずですし、荒天が予想されるから早く帰るようにと──」
「そんなことよりどうしたんですか? 雨宿りですか?」
「ああ……はい。車に傘を置いてきてしまって。距離もあまりないし、走り抜けようかと様子を見てたんですが……」
ビンゴ!
やっぱり、駐車場までの道すがら、傘がない!
「先生! あたし傘持ってますよ! ほら!」
と、藍色の傘をこれ見よがしに掲げる。
「……はい。それはよかったですね、武藤さん」
「入れてあげます!」
「え?」
「相合い傘しましょう! 先生!」
「……。いえ……。大丈夫ですよ、武藤さん。いざとなれば傘を職員室から借りられますし……」
「職員室に置いてある傘なんてどうせビニ傘でしょ? 先生にそんな安っぽい傘は似合いません!」
「何を言うんですか。それに僕は普段からビニール傘を──」
「相合い傘しましょう!」
「聞いてますか? 武藤さん。こんな天気の中、一つの傘に二人は無理ですって。──ほら、言ってるそばから雨風が強くなってきた」
「駐車場まででいいですから! 相合い傘しましょう!」
「いえ、ダメですって。傘は職員室まで戻ればありますから……」
「先生! ほら! 見てくださいよ!」
と、あたしは傘をパッと広げた。
最初のコメントを投稿しよう!