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「……買ったばっかりだったのに……」
骨と布だけの残骸に成り果てたそれに視線を落としながらめそめそするあたしの前に、先生が戻ってきた。
「……大丈夫ですか?」
「…………」
昇降口の自販機で買ってきてくれたのだろう、あたたかいミルクティーのペットボトルを差し出してくれる。
「修理に出しますか?」
「…………」
あたしは無言で首を振り、ミルクティーを受け取る。
「でしたらこちらで回収します。あと弁償も──」
「えっ? 何で? 先生のせいじゃないじゃん!」
「いや、しかし……。僕がごねたりくだらない話をしたせいで……」
「いやいや、あたしが勝手に傘差したんだし! それに突風のことなんて誰も責任取れないでしょ。てか責任の所在なんてないんだからさ! もっと毅然として、先生!」
「───……」
さすがに、心配顔を浮かべるあたしに先生は面食らったみたいだ。
「武藤さんは……けっこう言いますね」
「そうですか? てかミルクティーおごってもらっただけでも──」
立ち上がり、蓋を開けて飲み始めると──。
じわじわ。じわじわと。
実感として湧いてくる。
「しかし、嫌な風でしたね。君のお気に入りの傘まで壊してしまうし」
そう話す先生のとなりに、あたしは今いる。
二人で、雨風が落ち着くまで雨宿り。
ああ、そうか。
これって相合い傘チャンスなんじゃなくて、雨宿りチャンスだったんだ。
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