愛の夢

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 愛の、夢を。  胸を締め付けるような甘いメロディーを奏でていたわたしの目の前に、フッと影が過った。  わたしには〝幸せ〟なんて訪れない。  十本の指をいっぺんに鍵盤に下ろして、美しくない濁った不共和音がわたしの夢を途切れさせた。  儚い夢。幸せの夢なんて見ないって、決めたんだった。今夜の酔いが忘れさせていた、わたしの決意。  譜面台に置いたコースターを、わたしはごみ箱に捨てた。
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