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お客さんのリクエストは思いの外多く、結局は行き当たりばったりディナーショーみたいになった。解放されたのは閉店間際。ヘトヘトになってカウンターに戻ると彼の姿はなかった。
待ってて、なんて言えなかったけど、何となく待っていてくれるような、そんな淡い期待を抱いてしまっていた。
バカみたい、わたしったら。でも、聴きたいから、って言ってくれたじゃない。
ああ、そんなの社交辞令か。やっぱり、バカね。
落胆の気持ちを必死に掻き消しながらも、誰もいなくなってグラスも片づけられたカウンターの前で佇んでしまっていると、店長サンに声を掛けられた。
「咲希ちゃん、今夜はいきなり頼んで悪かったね。でもあれだけ弾いてくれてお客さんも喜んでくれた、よかったよ。チップも弾んでくれたしね。とりあえず、僕からも礼を言うよ」
「いえ、わたしも楽しかったから」
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