愛の夢

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 大通りで地下鉄を南北線から東西線に乗り換えて、西十八丁目で降りる。そこから道立近代美術館の森を横目に手稲に向かって数分歩くと、わたしが一人暮らしするマンションがあった。  十階建てのパッと見は立派だけれど実は築年数三十年以上というオートロックも無く、そこかしこに昭和の香りを残す、一言で、古いマンションだった。  ファミリータイプで間取りが充分にあり、ピアノが置ける。何と言ってもそこが魅力でわたしはここに十年以上住んでいる。  ガタゴトと音がする古めかしい窓付きエレベーターに乗り、五階で降りる。わたしの部屋はちょっと暗めの廊下の先、一番奥の角部屋だった。狭い玄関で、ヒールを脱ぎ捨てて中に入ると真っ先にリビングの隣の部屋に飛び込んだ。  六畳の洋間に目一杯、ギュウ詰め状態で入れたヤマハのC3サイズのグランドピアノがわたしを出迎えてくれる。
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