キッチン1

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 胸の芯から温かなものが湧いてくる。ずっと忘れていたこの感覚。もっと触れたい。その気持ちを、今は我慢。  わたしはアオ君の手にコールドスプレーをして、サポーターを巻いてあげた。一応、手に関してはエキスパートなので、色々対処方法は知っている。  サポーターで固められた手を見てアオ君ははにかむような笑顔を見せて「サンキュ」と言ってくれた。  一つ一つの表情が、わたしの全身に響いて心を震わせる。わたしはそっと手を伸ばしてアオ君の頬に触れた。アオ君も、その手を握ってくれる。  もう一度、抱き締め合ってキスをした。肌に触れる優しい手と指に身を預けながらわたしの指は、アオ君の髪に触れて、背中に触れた。  触れて知った、逞しい固い肩も背中も、首に絡めた腕でそのままギュッと抱き締めた。  わたしは、心を掴まれてしまったままこうやって成り行きに任せてしまっていいのだろうか。拭いきれない不安はどこから来るものなのだろう。
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