キッチン2

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 アオ君はオーブンのトレーにキッチンペーパーを敷きながら「ああ」と答えた。 「俺はあっちに行った時、まだ高校生で、初めての海外、一人では暮らすなんてとんでもねーからさ、まずはそこに慣れろ、って事で知り合いの家にホームステイみたいな形で入ったんだ。幸いにもそこのおばさんが親切で、色々教えてもらった。その中に、料理ってのもあったんだ。まあうちは母親が早くに亡くなって長く父子家庭だったから、俺、家事は何でも一通り出来て料理の素地はあったんだけどさ、ちゃんとした人に出せる代物作れるようになったのはドイツに行ってからだ」  そうなの、と答えながらもわたしは、あれ、と思った。アオ君は明るくさり気なく話してくれたけれど、一つ引っかかつ事があった。  アオ君のご両親は再婚で、アオ君はお母さんの連れ子と言ってなかった? お母さんの再婚相手だったお父さんと父子家庭だったの?  どちらにしても、ご両親はもういない、と話していた。アオ君がミュンヘンに渡らなければいけなかった裏には様々な事情隠れているような気がした。
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