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俯いたわたしの額に柔らかな唇の感触があった。
「辛かったろ」
静かな声と共に、抱き締められて、一旦止まりかかっていた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「咲希」
アオ君が、わたしを抱いたまま静かに話し出した。
「人間が生きる為に必要なスキルってのはいくつもあるんだろうけどさ、俺は〝許す〟っていうスキルが相当大事な部分を占めているんじゃないかと思ってる」
アオ君?
身じろぎしたわたしの身体を、アオ君は「黙って聞いてくれ」と言っているかのように強く抱いた。アオ君の逞しい腕が、わたしの身体を包み込む。
「どんなヤツだって、生きていれば必ず、大なり小なり怒りの感情を持たされる事案にぶち当たるだろ。怒りの感情は放っておけば、滓とかシコリになっちまう。じゃあどうするか、ってなった時にそのスキルを持っていれば、綺麗に解消は出来なくとも、和らげる事はできる。小さくしてやる事は出来る」
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