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わたしは、ああ、と苦笑いしてしまう。論点が微細にズレて、最初に何を話したか忘れてしまっていた。そもそもは、そこから始まっていたのだ。
許すも何も、許しを請うべきは誰なのか、分からなくなっていた。大事な核を詳しく話せない自分が歯がゆい。
わたしが黙ってしまっていると、アオ君の手が頬に触れ頭を撫で、髪を梳いた。触れる指先から痺れをもたらす。これは愛しさだ。熱が身体中に伝わって胸が震える。
目と目を合わせ、気付くと、アオ君の大きな両手がわたしの顔を挟み、指が耳に触れていた。
「咲希」
低く、甘い響きを持った声がわたしの中にダイレクトに響いてくる。思わず「はい」と応えたわたしにアオ君はいたずらっぽく笑った。
「その元婚約者に未練がなければ、許す!」
「へ?」
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