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「ですよね・・・全然、うまく歌えなかったし。すぐ使いものになる気もしないし・・・あれからもう、クビだ~絶対にクビになる、と思ってドキドキして生きてました」
白にグレーのストライプが入った
襟の立ったシャツ。
大きくカットされた袖から覗く
肉感的な腕のラインに目を盗られた。
「いや・・・そういう事じゃなく」
彼女はやはり
自分のボーカルとしての本分に
問題があったから
最後通告をされるのだと
覚悟しているようだった。
「目的をはっきりさせたいんです。ずっと俺も悩んで来ました。俺は、プロ志向なんですよ。この道でメシ食って行くつもりでやってます」
彼女にこれをはっきりと言うのが
酷なのは分かっている。
俺と組むなら家庭を捨てろ、
と言うのと同じ事だから。
「七瀬さん、旦那さんと別れられますか」
・・・彼女の顔から
表情が消えていった。
「勿論、俺の才能なんて通用しない可能性の方が高いですよ。だからこそ、それを越えるには、足りない部分を補い合えるパートナーが必要なんです。技術なら努力と場数で向上できるけど、引き合うものは誰にでもあるもんじゃない」
それがあなたです・・・
という言葉を、
俺は寸前で飲み込んだ。
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