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少しも納まる気配のない雨の中、マンション前まで来たわたしは立ち止まった。マンション前に、ネイビーの傘を差した男の人が立っていた。
足が前に出ない。立ち尽くすわたしにその人が気付き、目を丸くした。息を呑む気配が、数メートル離れていても感じられた。
「咲希、なんて恰好だよ」
叫ぶように言い、駆け寄る彼を見たわたしは後ずさりしてしまった。
「こないで!」
口から出た言葉はほとんど無意識だった。アオ君の、差し出された手をわたしの両手が拒んでいた。
「アオ君、ごめんなさい!」
「咲希?」
目の前にいるのは、今、抱き締めて欲しい人。でも、それは許されない。
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