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わたしは、アオ君の腕の中にいた。固く、たくましい胸板を身体で感じていた。頬に、シルクのネクタイの滑らかな感触があった。
雨が絶え間なく降りしきる中、アオ君に強く抱きしめられたままわたしは固まった。
アオ君? 言葉も出ないわたしにアオ君が耳元で静かに言った。
「傘、あったぞ」
一瞬意味が分からなったけれど、わたしは直ぐに理解した。地面に落ちた濃紺の傘は、わたしが失くしたアオ君の傘だった。
アオ君の胸に手を突いて少し離れて顔を上げると、目が合う。長い指がしなやかにわたしの髪の毛を梳いた。
「何度電話しても出ないから、俺、マイスターに行った」
目を見開くわたしに、アオ君のキスが待っていた。
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