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冬香さんはどうして傘を持って行ったの? そして、アオ君は彼女とどんな話しをしたの?
溢れる疑問がわたしの中の言葉を作る神経を圧迫している。言葉が出てこない。それに、今わたしを圧し潰そうとしているのはもっと重い事実だった。わたしは声を絞り出す。
「アオ君、わたしはそれよりも、もっと――」
「マイスターの店長サンから、咲希に話した事を全部聞いた」
被せ気味にきたアオ君の声にわたしは黙った。伏し目がちになったアオ君の表情は苦し気に見えた。
「アオ君?」
「最初の、約束の日は守れなかった。守れなかったんだ、俺。その時はまだ、割り切る許容がなかったんだ。ごめん」
雨の音が辺りを包む。世界が、わたし達のいるこの空間で切り取られたような錯覚を覚えた。飛んでしまいそうになった意識をわたしは必死に持ちこたえる。
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