助けてくれたその人は

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「あ、春樹先生!」  夕方になって音楽教室が入っているビルに着いたわたしは、一階楽器店のレジカウンターにいた女の子に呼ばれた。  誰かと電話で話していたらしい彼女は受話器を手にしていたけれど、その顔は明らかに何かに怯えている表情だった。不穏なものを感じたわたしは直ぐに彼女の傍に行った。  受話器の送話口を手で押さえる彼女は小声でわたしに囁いた。 「春樹咲希を出せ! って男の人が凄い剣幕で怒鳴ってるんです。怖くて怖くて。春樹先生、何かやったんですか」  困惑を全面に出していた彼女の顔が〝何かやったんですか〟という言葉で〝迷惑です〟という感情を垣間見せる表情に変わった。わたしは本当に申し訳ない、と頭を下げて小声で謝り、コードレスフォンを受け取った。心当たりが全くない、とは言い切れなかった。
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