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温かい、血が通う手。触れると、少しだけ反応があった。
生きて、くれていた。よかった。
「玲君……ダメだよ、婚約者さんと別れたら」
わたしは玲君の手を両手で握り、囁くような小さな声で話しかけた。
「わたしは、玲君が何かを犠牲にして選んでもらえるような女じゃないからね」
言いながら、声が震えた。込み上げる涙が溢れて、ボロッと零れた。
アオ君を傷つけてしまったわたしが玲君を選んでいいわけがない。でも、わたしの手の中にある生を感じる温もりは、心にダイレクトに訴えかける。溢れる想いを湧かせてしまう。
『まだ、咲季先生にキスをしてもらっていないのに死ねませんから』
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