春・帰郷1

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春・帰郷1

 熊井法律事務所が入っているビルは大通公園十一丁目に面した通りにあった。  窓からは、初夏の陽気の下、緑映える公園が見える。昼下がり、昼休みを過ごしたサラリーマン達が足早にオフィスに戻って行く姿もよく観察できた。 「いい季節なんだから、少しは花を見上げても良さそうなもんだけどな」  札幌の花、ライラックが見頃を迎え、公園の中に色を添え、北国に春が来たことを実感出来る季節になっていた。 「そうは仰っても、熊井先生が花を愛でながら歩く姿はちょっと想像出来ませんね」  クスクスと笑う声に熊井は振り向き、今言葉を吐いた当人を軽く睨んだ。 「相変わらず失礼な奴だな」
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